容認発音とは、英語ではReceived Pronunciation (以下RP) と呼ばれるもので、クイーンズイングリッシュと呼ばれることもあります。
主に王室の人やイギリス東南部の富裕層が使う英語を指す用語で、この発音で話す人は私立校出身のお金持ちという印象を与えます。
私たち外国人がイギリス英語として主に学ぶのがこのRPで、イギリス人が外国の人と英語で話す際に用いるのも、このRPであることが多いのです。
しかし、このRPを日常的に使うのは、イギリス全人口のわずか2%ほどだと言われています。
RP、Received Pronunciationはイギリスの音声学者による用語で、彼は当初これをPublic School Pronunciation (PSP) と提唱していました。
この言葉の元となったPublic schoolについて簡単に説明します。
アメリカでパブリックスクールというと、地元の児童を受け入れる公立学校を指すのですが、イングランドではパブリックスクールは私立の学校 (アメリカでは私立校はプライベートスクールと呼ばれる) 、特にトップ10%のエリート校を意味しています。
パブリック (一般) と呼ばれるのは、非営利の教育機関として登録されており、課税の対象外であるからなのです。
また親の身分や職業に関係なく入学が可能で、非常に高い教育および卒業生による高い実績が広く社会に認識され、そこでの教育が「公共」的意義があると考えられているから、などが理由として挙げられています。
「親の身分や階級に関係なく」と言いましたが、実際パブリックスクールに通っているのはごく一部のお金持ちがほとんど。
理由はパブリックという言葉からは考えが及ばないほど高額の学費。年間3万ポンド (およそ600万円) もかかることから、国内では、パブリックスクールに通える子供イコール超お金持ちの親を持っている、というイメージなのです。
もちろん一部例外はあります。奨学金での入学を認められるケースもあります。そうでなければ非営利の認可が取り消され、非課税の権利はく奪を余儀なくされます。
しかしパブリックスクール=超お金持ちのイメージは根強く、だからこそPSP、パブリックスクール発音というのは、それを使うだけでお金持ちかつパブリックスクール出身という印象を相手に与えるのです。
実際お金持ちの子供は、パブリックスクールに通う前にこの発音を使うよう教育を受けます。
これに対し、一般の労働階級の人々が話すのは河口域英語 (Estuary English、以下EE) というもの。
労働者階級の人が使う言葉を指す用語としては、コックニー (Cockney) が使われていましたが、時に上流階級の人々から汚い、俗っぽいと言われることもあり、EEはRPとコックニーの両方に違和感を覚える人達が使う、言わば中間層向けの言葉であると言えます。
そもそも、イギリスという国は階級制度を色濃く残す国であり、21世紀の現代においてもなお、そういった意識を持っている人がたくさんいるのです。
移民を多く受け入れ、国際的なイギリスだけに意外な印象を受けるかもしれません。
しかし実際に彼らは初対面の人と会話する時に、その発音でどの階級の出身かということを意識的もしくは無意識に見て取っているのです。
パブリックスクール出身の人の多くはオックスフォード大学やケンブリッジ大学に入学します。言わずと知れた超名門校ですね。
もちろん、公立校から入学する人もいるわけですが、この人達は実はエリートとは呼ばれないんです。 彼ら自身もエリートとは自覚しておらず、そこには見えない壁のようなものがあります。
パブリックスクール出身の学生たちは、大学入学前に、すでにコネクションを築きあげており、大学での交友関係はまた別物になるのです。
パブリックスクール出身の学生が所属するクラブに公立校出身の学生は誘われることもなく、クラブの存在自体を知らない場合さえあるのです。
イギリスの学校制度は、今なお色濃く残るこの国の階級制の縮図とも言えるでしょう。
オックスフォードやケンブリッジ出身者の全員がエリートなのではなく、パブリックスクール出身かつオックスフォードあるいはケンブリッジといった名門大学出身の人がエリートと呼ばれるのです。
パブリックスクールより高い学力を持つ学生が多いと言われる私立校も実はいくつかあるのですが、そこに通うのは「普通のお金持ち」の子供たち。
パブリックスクール出身の彼らと同じ大学を卒業しても、各分野でのトップになるのはかなりの難関なんだそうです。
たとえ彼らのほうが有能であったとしても、です。
首相を始め、政財界やメディアのといった分野のトップはほとんどがパブリックスクール出身。
そこにははっきりとした階級差別があるのです。
しかし音声学者がパブリックスクール発音という、「上流階級向けの学校出身」の階級方言という定義を修正し、容認発音という、「大学教育を受けた」上流階級の発音と定義しなおしたのも、このようなあからさまな階級差別を避けたい考えがあるからかもしれません。
古い時代、イギリス人の多くは上流階級に対し憧憬の念を抱いていたため、彼らは上流階級でもないのにRPを使って話し、いわゆる「セレブの真似事」をしていました。
しかし現在では地域の方言自体の地位が向上しており、特に若い世代では上流階級より労働者階級のほうがかっこいいと考えられるようになっています。
また、階級だけで判断されることを嫌う人が増えているため、昔とは逆で上流階級の人が地方訛りのある英語やEEを話すようになってきています。
日常的にRPを話す代表的な人物と言えばエリザベス女王が挙げられるでしょう。
しかしその孫であるウィリアム王子はEEを話します。
そしてその妻であるキャサリン妃はRPを使って話をしています。
エリザベス女王のような階級を強く意識する人は、クイーンズイングリッシュとも呼ばれるこのRPを使う女性を、孫が配偶者として選んだことを喜んでいると考えられます。
キャメロン首相は、ウィリアム王子と同じパブリックスクール出身です。
就任当初はRPを使っていました。
しかし民衆に親近感を持ってもらうため、徐々に労働者階級の英語であるEEを話すようになっています。
日本の政治家が庶民に迎合して居酒屋メニューやお手頃ランチを好んで食べているとアピールをするのと似ていますね。
また、医者や弁護士のような職業に就く人の中には、上流階級出身でなくてもRPを話すよう訓練をする人もいれば、上流階級出身でも一般の人からの信頼や親近感を得るために敢えて方言を話す人もいます。
ちなみに上流階級の人たちはposhと呼ばれています。
直訳すると「上流階級の」という、ほめ言葉のような響きがありますが、多くの場合これには揶揄するようなニュアンスが含まれています。
「上流階級気取り」「ハイカラぶった」という、軽蔑的な意味を持つ場合さえあります。
イギリスの国営放送であるBBCのアナウンサーも、今ではRP以外の発音で話すことが増えてきています。
そして、RP自体も時代とともに変化しつつあります。
私の友人には英語学習に励む人がたくさんいます。
そしてその多くが、せっかくだからイギリスの発音で英語を習得したいと考えています。
確かに私たちが学校で学んできたイギリス英語は、日本人にとって聞き取りやすく、やはり英語発祥の地ですので、きれいな発音と言って差し支えないと思います。
しかし、イギリス英語の標準語と言われるRPを日常的に使う人口は、前述したようにイギリス全国民のおよそ2%です。
しかし外国人が学ぶイギリス英語はRPであることが多く、イギリス人が外国人と話す際は、相手が理解しやすいであろうという配慮からRPが使われることも多いようです。
そのため私たちは今もRPがイギリス全土で使われる標準語のように考えてしまっているのです。
RPは日本語で言うところの京ことばでしょうか。
今は京ことばを話すのは私たちのひいひいおばあちゃん世代くらいの人達で、まぁ、100歳くらいの方ということです。
つまりそれを日常的に使う人はほぼ存在せず、聞いたこともないという人がほとんどです。
舞妓さんのように職業的な京ことばを話す人はいますが、普段の会話で「~どすえ」なんて言う人は京都にもいません。
時代劇か何かでこんなシーンがあったのを思い出しました。江戸の女性が京からやってきた皇族の女性にお国言葉をやめるように迫ります。
言われた女性は元々都は京なのだから、お国言葉とは江戸の言葉を指すのでは、と反論するというものです。
イギリス英語というのは、南東部の上流階級が使うRPや、ロンドンおよびテムズ川河口域で使われるEE (河口域英語) のほか、実にさまざまな方言が存在するというのはご存知でしょうか。
ほんの数km離れた町や、ひどいときには隣村でさえも違う方言を話すのです。
これはヨーロッパ諸国にありがちなことですが、イギリスでも同様です。
そしてその多くの人が地元の方言を大事にしながらも、必要に応じて標準語を使っています。日本とあまり変わらないようですね。
私たちも、世間一般に広く親しまれているEEを学んだ上で、RPなどの方言を学ぶと、その地方出身の人に親しみを持ってもらえるかもしれません。
ただ個人的には、時代の流れに沿った柔軟な考えを持って、誰が相手でも理解しやすい英語を話せる人が、国際社会を生きるにふさわしい人と言えるんじゃないかな、なんて考えています。
そして、美しい英語 (発音が完璧でなくても、気遣いが感じられる話し方) を話す人というのは、総じて美しい日本語を話します。
普段はくだけた話し方や方言を使っていても、時と場合、会話をする相手に応じて丁寧な標準語だったり、正しい敬語を話せる人っていますよね。
そういう人たちです。
「○○人の発音って聞き取りづらいよね~」と言う人に限ってボキャブラリーが貧弱で、相手の話す慣用句や熟語を理解できていないだけ、「留学してたから敬語忘れちゃった~」と言う人に限ってただ単に礼儀を知らないだけ。
そんな人の多くは英語でも、日本語同様に失礼な話し方をしており、そもそも英語にはフォーマルな場面で使う話し方があるという概念すら持っていないようです。
やはり、レベルの高い英語を習得できる傾向にあるのは、日本語や英語に限らず言語自体を大事にしていて、相手に正しく伝えたい、相手を正しく理解したいと考えている方が圧倒的に多いように感じます。
色んな国のアクセントを理解しようとする柔軟な心構えがあり、上流階級の英語だけを学びたい、などと言う人にはやや足りない、他人に対する敬意のようなものだと思います。
一見、英語力とは無関係のようですがコミュニケーションにおいて非常に重要なことだと私は考えています。
でも、そうは言っても、せっかくイギリスに留学していわゆる本場のイギリス英語を学ぶ機会に恵まれたのであれば、RPも同時に勉強してみるのもいいかもしれません。
RPを完璧に話せる日本人・・・かっこいいですね。でも、イギリスまで行くのだから、イギリス文化やイギリス式のマナー、歴史、ついでに階級制度についてなど、あらゆることに見識を広げるのもいいかもしれません。
現地に行けばネットや本には載っていないこと、経験からしか身に付かないことだらけです。そのような見識や教養を身に付けた人が話すRPには深みがあると思います。
でも、もしまだあなたが英語ビギナーであるなら、先にフィリピン留学に行かれることをおすすめします。
なぜなら・・・。
物価の安いフィリピンでは、マンツーマン指導が格安で行われています。苦手を潰して、細かなミスを徹底的に改善しようと考えるならば、マンツーマン指導がもっとも効率的です。
グループレッスンでは、ちょっとした文法や冠詞のミスなどは多くの場合スルーされます。
授業のスムーズな進行が優先されるからです。間違いを放っておくと、間違ったまま身に付いてしまいます。
もしそれが会話の流れを妨げない程度の小さなものであれば、話し相手は懇切丁寧に指摘することはないでしょう。
学校を卒業してしまえば、指摘してもらう機会をついに失ってしまいます。フィリピンでしっかりとした基礎を身に付けてからイギリスへ行き、さらに発展した英語力を身に付けるという手もあります。
身内の話になってしまいますが、友人はオーストラリアに留学し、語学学校に通っていました。
彼女は全く英語が話せず、学校ではビギナークラスで、ABCの発音から訓練していました。生活費も授業料もハンパなく高いシドニーで、ABCを・・・もったいないです。
正直、お金の無駄だと思ってしまいました。
フィリピンでやりましょう。格安で。
イギリスで高額な授業料を払うなら、それに見合った高いレベルのレッスンを受けたほうがいいと思いませんか?
もちろんフィリピン留学でもレベルの高い指導を受けられます。料金以上のハイクオリティのレッスンです。
フィリピンで基礎を身に付けたあと、もっとも古くから英語を使ってきた歴史を持つ国イギリスへ行く。
そこで国際標準語として発展を遂げた英語をさらに本格的に学ぶのは素晴らしいことだと思います。
たくさんの選択肢がある今、自分にとってベストな方法で英語を習得するのは決してむずかしいことではありません。
ですが、美しい発音を学びたいと思うあまり、10億人以上の英語話者がいるこの世界で、発音ひとつに気を取られてベストな道を選び損なってしまう人もいるでしょう。
留学が終わっても、語学習得には終わりがありません。
なぜなら会話には必ず相手がいて、それは一人ひとりまったく別の人間だからです。
発音ばかりに気を取られ、階級だの出身地にこだわって言語学習の本来の目的と相手の人格を見誤ることがないよう、正しい英語を身に付けましょう。
相手が不愉快な思いをしはしないか、誰に対しても配慮を持って話す姿勢こそが美しい語学習得には不可欠だと思います。
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